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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)129号 判決 1970年7月07日

原告 株式会社日強製作所

被告 小石川税務署長

訴訟代理人 広木重喜 外三名

主文

被告が原告に対し昭和四一年六月二九日付をもつてその昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度における所得金額を九七六万六、八六七円とした更正処分のうち、所得金額が八五〇万一、五〇七円を超える部分及び同日付でなした過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

主文と同旨の判決。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。

第二原告主張の請求原因

一  原告は昭和四一年一月二六日被告に対し昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度分の法人税につき、所得金額を八五〇万一、五〇七円、法人税額を二六八万八、〇四〇円とする確定申告書を提出したところ、被告は昭和四一年六月二九日付をもつて、所得金額を九七六万六、八六七円、法人税額を三一五万三、九五〇円とする更正処分及び過少申告加算税二万三、二五〇円の賦課決定処分をなしその頃右決定を原告に通知した。

原告は右各処分を不服として同年七月二八日被告に対し異議申立てをし、同年九月一九日被告からこれを棄却する旨決定されたので、同年一〇月一八日東京国税局長に対し審査請求をしたが、昭和四二年五月六日同局長からこれを棄却する旨の裁決をされ、同月一五日その裁決書謄本の送付を受けた。

二  そして、右更正処分は原告がその役員に支給した左記賞与を損金に算入したのを否認したことによるものである。

役員の氏名   賞与の額(円)

高橋省吾     五〇、〇〇〇

倉持仁     五一五、〇〇〇

涌井陽太郎   四四〇、〇〇〇

宮城嘉春    三七〇、二〇〇

計     一、三七五、二〇〇

三  しかしながら、右賞与のうち、高橋省吾に対する五万円を除くその余合計一三二万五、二〇〇円についてされた否認は誤りであり従つて、右更正処分のうち、所得金額が八四四万一、六六七円を超える部分は違法であるからその範囲内たる右申告にかかる所得金額を超える限度で右処分の取消しを求め、また右過少申告加算税賦課決定も右の筋合に対応して違法であるからこれが取消しを求める。

第三被告の主張

(請求原因に対する答弁)

原告主張の請求原因のうち、一の事実は裁決書謄本が原告に送付された日時の点を除き、すべて認める。右裁決書謄本の送付の日時は昭和四二年五月一三日である。同二の事実は認める。

(抗弁―処分の理由)

一  原告においては、その代表取締役高橋省吾以下五名の役員が左記のとおり、その発行済株式総数の一〇〇パーセントにあたる株式を所有しているから、旧法人税法(昭和四五年法律第三七号による改正前の法律――以下、法ともいう。)第二条第一〇号八に該当する同族会社である。

役員の氏名  持株数(株) 発行済株式総数に対する比率(%)

高橋省吾  三、一〇〇    六二

倉持仁     八〇〇    一六

涌井陽太郎   六〇〇    一二

宮城嘉春    四〇〇     八

佐久間庸夫   一〇〇     二

合計    五、〇〇〇   一〇〇

二  そして、右役員のうち、倉持仁、涌井陽太郎及び宮城嘉春の三名は法人税法施行令(昭和四五年政令第一〇六号による改正前の政令―以下、施行令という。)第七一条第四号の規定上、いずれも原告が「同族会社であることについての判定の基礎となつた株主」(以下、同族判定株主ともいう。)である。従つて、右三名の役員はたとえ原告の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものであつた(この点の被告主張事実は認める。)にしても、施行令第七一条第四号、法第三五条第五項により、同条第二項の適用が排除されるから、同条第一項によつて、右三名に支給された賞与は損金に算入することができないのである。

三  ちなみに法人税法第三五条第一項が規定する役員賞与の損金不算入の原則についていうならば、右原則は役員賞与が法人利益の分配であつて、法人利益を稼得するための経費とは考えられないことに立脚する。そもそも、法人の役員は通常の使用人と異り会社の機関として、その業務を執行するものであつて、法人との関係については委任に関する規定に従うとされ(商法第二五四条第三項)、業務執行の対価として報酬を受け、法人に利益がある場合に限り、株主総会の承認を経てその分配として賞与の支給を受けるのを通例とするが、このことはわが国における企業の慣行として判例もこれを認め、また企業会計においてもこれを前提とする諸規定を設けている(例えば、「企業会計原則」第一の三、第二の八、「財務諸表準則」第二章第七別表AIV号表、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第一一四条は役員賞与は利益処分によることを規定し、さらに「原価計算基準」(昭和三七年一一月八日大蔵省企業会計審議会中間報告)の第一章の五は非原価項目として役員賞与金を掲げている。)。すなわち、役員賞与は使用人給与のように法人の利益稼得のために必要な経費として損金に算入するいわれがないのである。

そして、法人税法第三五条第五項は同条第一項の特則として使用人兼務役員の賞与の損金算入を規定した同条第二項における使用人兼務役員についての定義規定であるが、右にいう兼務役員から、かつこ書きをもつて除外された社長、理事長その他政令で定めるものは一般に役員としての本来の業務に専念するものと認められるものだけである。したがつて、法人税法第三五条第一項、第五項、同法施行令第七一条等の規定が原告主張のように一部の役員を不平等に取扱い、その勤労権を侵害するものであるという非難は当らない。

また、法人の役員賞与の原資となる法人の利益について法人税が課せられ、他方役員賞与を受けた役員個人の所得について所得税が課せられるのは納税主体及び課税物件が異る以上当然のことであつて、これをもつて原告主張のように二重課税と目するのは当らない。なお、原告は右のような二重課税のためその税率が法人税として三五パーセント、所得税として七五パーセント、合算すれば一一〇パーセントにも達すると主張するけれども、さような例は法人が利益の全部を役員賞与として支給するような場合にはじめていえるにすぎないから、非難の根拠とはなし難い。

第四原告の主張(抗弁に対する答弁)

一  被告主張の抗弁の一の事実中、原告の役員高橋省吾、倉持仁、涌井陽太郎及び宮城嘉春の各持株数及びその発行済株式総数に対する割合が被告主張のとおりであることは認める。

同二の事実中、原告の役員倉持仁、涌井陽太郎及び宮城嘉春の三名が同族判定株主であることは否認する。すなわち、原告においては、その代表取締役(社長)たる高橋省吾が発行済株式総数の五〇パーセント以上にあたる六二パーセント相当の株式を所有しているのであるから、それだけで法人税法第二条第一〇号イに該当する同族会社であると判定するに足りる以上、右高橋だけを同法施行令第七一条第四号にいう同族判定株主とみるべきであつて、その他の役員を同判定株主とみる余地はない。

そして、右役員中、倉持仁は原告の工場長、涌井陽太郎は同工事部長、宮城嘉春は同工事部長として、いずれも原告の使用人たる職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事していたから、右三名の役員に支給した賞与はいずれも当該事業年度において損金計理をしている以上、同法第三五条第二項による損金の額への算入を認むべきものである。

二  なお、被告が役員賞与の損金不算入の原則を規定するものとして援用する法人税法第三五条第一項、第五項及び同法施行令第七一条は法人の支給する役員賞与について二重課税を認めるものであつて、税法における二重課税排除の原則及び公平負担の原則に反し、左記の理由により憲法第一四条第一項(平等の原則)、同第二七条第一項(勤労の権利)及び同第三〇条(納税の義務)の各規定に違反するから、法令としての効力がない。

(一)  法人税法における役員賞与の取扱いには次のような変遷があつた。

1 当初、会社役員は原則として無報酬であつて、利益が出て配当するとき役員賞与を得る建前であつたので、役員賞与は法人の損金とならないが、その代り、二重課税を避けるため所得税に関しては非課税の扱いを受けていた。ところが、後に役員報酬の制度が生れると、税法上も定款または株主総会の決議により額を一定された役員報酬については、これを損金とする建前に変つた。

2 次で、戦後、世上において会社役員に対し勤労の対価としての性質を有する役員賞与(以下、賃金賞与という。)が支給されるようになると、税務当局も当時、賃金賞与をすべて損金として認めた。ところが、その後、賃金賞与としては不当に高額な役員賞与が支給されるようになり、これを会社の利益分配としての性質を有する役員賞与(以下、利益賞与という。)として賃金賞与から区別する必要が生じたので、税務当局は個別通達によりかような額の役員賞与をすべて利益賞与として取扱う方針を打ち出した。しかし、これが余りにも社会的、経済的実情からかけはなれていて、納税者の争訟を多発させる因をなしたので、税務当局は政令をもつて「使用人兼務役員賞与」という概念を創設し、これにより賃金賞与を損金として認めるにいたつた。

3 ところが、それでもなお納税者の争訟が跡を絶たないので、税務当局は従来の方針を転換し税制上、役員賞与の損金不算入を原則とする旨の規定(現行の法人税法第三五条第一項等)を創設し、これにより社長、理事長等に対する役員賞与については賃金賞与たると利益賞与たるとを問わずすべて損金に算入しないこととしたのである。

(二)  しかし、法人税法第三五条第一項、第五項及び同法施行令第七一条は前記のような賃金賞与の社会的実態を無視して、社長、理事長等に対して支給される賃金賞与についてのみならず、同族会社における役員のうち、使用人としての義務を有する同族判定株主等に対して支給される賃金賞与についてまで、これが損金算入を否定して、かような役員を税法上、他より不利益に取扱い、ひいては、その勤労権を侵害するものである。

また、右各規定は同一所得に対し二重課税をし、これにより履行が不可能な納税義務を発生させるものである。すなわち、右規定のように会社の一部役員に対する賞与の損金算入を否認することはその役員賞与について会社に対し法人税を課すると同時に役員に対し所得税を課することになるが、その場合、法律上は法人税として三五パーセント、所得税として七五パーセント合計一一〇パーセントの課税が可能であり、これに地方税を加えると、その課税率は実に一三四パーセントに達し、これを納税することは、とうてい不可能である。

第五証拠<省略>

理由

一  原告が昭和四一年一月二六日被告に対し昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度分の法人税につき、所得金額を八五〇万一、五〇七円、法人税額を二六八万八〇四〇円とする確定申告書を提出したところ、被告が昭和四一年六月二九日付をもつて所得金額を九七六万六、八六七円、法人税額を三一五万三、九五〇円とする更正処分及び過少申告加算税二万三、二五〇円の賦課決定処分をなしたこと、原告が右処分を不服として、同年七月二八日被告に対し異議申立てをし、同年九月一九日被告からこれを棄却する旨決定されたので、同年一〇月一八日東京国税局長に対し審査請求をしたが、昭和四二年五月六日同局長からこれを棄却する旨の裁決をされ、同月中、その裁決書謄本の送付を受けたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、右更正処分及び加算税賦課決定処分の適否につき判断する。

(一)  原告において右事業年度当時、高橋省吾、倉持仁、涌井陽太郎、宮城嘉春及び佐久間庸夫の五名の役員が原告の発行済株式総数五、〇〇〇株のうち、それぞれ三、一〇〇株、八〇〇株、六〇〇株、四〇〇株、一〇〇株所有し、これが右発行済株式総数に対する比率がそれぞれ六二パーセント、一六パーセント、一二パーセント、八パーセント、二パーセントであつたこと、もつとも、右役員のうち倉持仁が工場長、涌井陽太郎が工事部長、宮城嘉春が工事部次長として、それぞれ原告の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事していたこと、そして、原告が右事業年度において倉持仁に五一万五、〇〇〇円、涌井陽太郎に四四万円、また宮城嘉春に三七万〇、二〇〇円の役員賞与を各支給し、これを損金に算入したこと、ところが、被告が右賞与の損金算入を否認して前記更正処分をしたものであることは当事者間に争いがない。

(二)  被告は倉持仁、涌井陽太郎及び宮城嘉春の三名の役員を原告の同族判定株主として旧法人税法第三五条第五項、同法施行令第七一条第四号により同法第三五条第二項所定のいわゆる使用人兼務役員から除外すべきであり、従つて右三名に支給された賞与を同条第一項により右事業年度の所得金額の計算上、損金に算入することはできないと主張する。

しかし、同法第二条第一〇号の規定による同族会社の定義によれば、同族会社は(株式会社についていうならば、)(イ)株主の三人以下及びこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の一〇〇分の五〇以上に相当する会社、(ロ)株主の四人及びこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の一〇〇分の六〇以上に相当する会社、(ハ)株主の五人及びこれらの同族関係者が所有する株式の総数がその会社の発行済株式総数の一〇〇分の七〇以上に相当する会社のいずれかに該当するものを指称するところ、そもそも、同族会社について法人税法上、特別の取扱い(例えば、同族会社の留保所得に対し特別税率を定めた同法第六七条及び同族会社等の行為または計算の否認を定めた同法一三二条等)がなされているのは同族会社においては、少数の大株主が会社の意思決定を支配する可能性が強く、これがため非同族会社にみられないような特殊の取引または経営、例えば、会社と役員との間の不合理な取引あるいは利益の過大な社内留保等がなされることが多いことによるものと考えられるから、同族会社か否かを判定する実質的条件は、最少限の少数株主によつて、いやしくも会社の支配が可能な場合には直ちに、これによつて充足されると解するのが相当である。従つて、例えば、右に示した(イ)の基準に該当する会社については、既に三人以下の株主で会社運営の支配が可能であつて、それだけで同族会社と判定しうる以上、右会社が更に、(ロ)または(ハ)の基準にも該当するからといつて、この点まで同族会社と判定する基準に加えるのは全く無意味である。すなわち、(ロ)または(ハ)の基準はそれぞれ株主の三人以下及びその同族関係者だけ、または株主の四人及びその同族関係者だけでは会社支配の可能性が生じない場合に、はじめて会社の支配可能性を認識させる独自の基準としての意味をもつのである。のみならず、既に(イ)の基準に該当する会社においては、株主の三人以下だけで、その運営を支配することが可能であり、その故に同族会社と判定されるのであるから、その余の株主はこの場合、その会社の運営支配上、実質的な影響力がないと観念されているというべきであつて、これをその会社の同族判定株主、即ち「同族会社であることについての判定の基礎となつた株主」の範囲に含ましめる合理的根拠はないものといわざるを得ない。

そして、原告の場合、その役員の一人たる高橋省吾が原告の発行済株式総数の六二パーセントに相当する株式を所有していることはさきに認定したとおりであるから、右事実だけで原告は同法第二条第一〇号イに該当する同族会社と判定され、原告の運営は右高橋一人だけで支配される可能性があると認められる。従つて、一方、倉持仁、涌井陽太郎、宮城嘉春及び佐久間庸夫の四名の役員がそれぞれ原告発行済株式総数の一六パーセント、一二パーセント、八パーセント、二パーセントに相当する株式を所有していることは前記認定のとおりであるけれども、右四名を原告の同族判定株主と認むべき理由はないのである。そうだとすれば、被告がこれと異なる見解のもとに、右四名のうち、倉持仁、涌井陽太郎及び宮城嘉春の三名を原告の同族判定株主と判断して原告の使用人兼務役員から除外すべきであるとし、同人等が原告から支給された前記金額の賞与を原告の前記事業年度における所得金額の計算上、損金に算入した原告の経理を否認したのは法令の解釈を誤つた結果であつて、所得金額の認定に瑕疵が生じた以上、違法たるを免れない。

三  以上の次第であるから、被告が原告に対しその右事業年度における所得金額を九七六万六、八六七円とした更正処分のうち、所得金額が違法な金額の範囲内たる申告額を超える部分及び右処分を前提としてなした過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも違法であるから、その取消しを求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

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